不忍池

言問通りから竹久夢二美術館のある暗闇坂の方に右折し自転車のペダルを踏む足をとめて坂道を下ると少し汗ばんだ額に風が心地よく通り過ぎる。

この坂は江戸時代は樹木が生い茂った薄暗い坂だったらしいけど、今は大通りの喧騒からは逃れているものの鬱々とした雰囲気はない。人通りは大して多くなく時折めちゃ頭脳明晰そうな東大生とすれ違う程度だ。
坂を下るとすぐに不忍池が見えてくる、ここまで来るといつも悩むことがある。
大した問題ではないがミニストップでチョコアイスを買うかどうかだ。

優柔不断なので(自転車どこに置こうかな)と考えているうちに信号を渡り終えて池の歩道に着き(まぁ、いいや)ってことになる。
これが友達と一緒なら、このタイミングでチョコアイスなんて流石だわー♪と思われたくて、さっと自転車止めてアイスをゲットし「ありがとー」って喜んでくれたら小さなガッツポーズしてるんだろうなとか思いつつ。(こどもかっ)

不忍池は春には桜が、そしてこの季節は蓮、冬は冬枯れの景色が趣があり一年中誰と来ても楽しめるし(モチロンひとりでも!)毎年花たちの表情も少しずつ違う。
私を喜ばすのは花だけでなく池のほとりで座り込んで休んでいる水鳥、びっくりするほど沢山の鯉や手乗りしてくれる雀、そして遊歩道にひょっこり出てくてスリスリしてくれる猫たち。
それらの被写体を見ていると(こんな風にとってみたい)と頭の中で思い描く。
思い描くのと実際に撮れるのとは違うが、先ずは思い描くことが大事だと心で呟きながら整理しきれない枚数撮る。
ここがいい!と思ったらどこでも座り込んだり跪いたりするからアイボリーのコットンパンツは汚れまくりだが知ったこっちゃない。どうせ洗濯するのは自分だしな。

風が止む。
息を止める。
幾千分の一秒の映像を切り取る。
例えそれが思い描いていたものとは違っていても大切なもののように思える。

移転して早や蓮の季節が2回過ぎて不忍池が遠くになったなと思う。
見ているだけで清々しい気持ちにしてくれる淡い紫色の蓮の花は今年も水辺一面に咲いたのだろうか。